青いそら~オニーとオカンと時々イモート~

これはアスペルガーのオニーとフツーのオカン、2人の20年以上にわたる成長記録である。

66*2013 オニー中学校2年生>>5

Mさんの助言で夫との関係修復を考えたオカンは、まず夫に謝った。今までオニーにばかり目を向けて、夫に対して雑になってしまっていたことを謝り、今まで言わなかったオニーの大変な事や辛い事を話した。これからは何でも話して、2人で相談して仲良くやっていきたい、今までごめんなさい、と頭を下げた。

夫はなんとなく嬉しそうに見えたが、「うーん、そんなんとちょっとちゃうねんけどなぁ。」と言った。そして10年近くの年月をかけてすっかりこじらせてしまっている夫は、「それをオニーの前で言えるか?」と言ってきたのだ。オニーの前でオカンに、私が悪かった、ごめんなさい、と頭を下げろと言うのだ。

そしてもう1つ。夫はこんな事も言い出した。「n市で上手くやっていけないアンタを可哀想に思ったから、俺はアンタの為に転職して関西に帰ってきた。それやのにアンタは帰ってきて、実家や友達が近くに居ることでどんどん調子に乗って、俺に対する感謝が無くなった。俺はアンタの為に転職までして、それは最大の愛情やったのに。転職までしてくれて感謝してる、それも言って欲しい。」

オカンは夫に、オニーの前で言うと約束した。きっと夫はオカンを試しているのだろうから、オカンも本気を見せなければ。夫を満足させる為にはやるしかない。

でも、オカンの中では、それは得策ではなかった。なぜなら、オニーはオカンが父親に謝る姿を見て、「ナルホド!オカンが悪かったんや!」と思う訳がないからだ。そして、転職への感謝はオニーには全く関係のない話だから。そんな事をすればオニーは、父親がオカンを謝らせている、と思って余計父親に反発するだろう…。

でも仕方がない。まずは夫の電池を充電しなくては。始めてしまったのだから、やるしかない。オカンは夫の望み通り、オニーの前で謝り、感謝を伝えた。

夫はとても満足そうだった。しかし案の定、今まで自分の味方だと思っていたオカンが、父親に寝返ったと思ったオニーの反発は凄かった。

数日後、学校から呼び出された。オニーが担任の制止を振りほどいて教室を飛び出した時、担任がドアにぶつかって怪我をして病院へ行っている、とゴッTから連絡があった。

オカンは夫に電話をした。子どもの事で仕事中に電話をしたのは初めてだったかもしれない。とりあえず、学校へ行くと伝えた。夫は自分も帰って行こうか?と言ってくれたが、1人で大丈夫だと伝えた。

学校へ行くと、ゴッTと組長が生活指導室にいた。先生方によると、最近オニーは機嫌が悪く、様子がおかしかったそうだ。オニーは以前から学校で、父親が嫌いだとかクソだとか言っており、先生方はオニーと父親の関係を知っていた。家で何かあったかと聞かれ、事の経緯を話した。「…ショックだったんでしょうね。」

先生方でも分かること。それが当の本人には分からない。夫には分からないのだ。自分の欲望を満たすためにした事が、どれだけ息子を傷付けたか、という事を。

本当は、オカンは夫と2人の間で仲を修復し、オカンが夫とオニーの間を取り持って、徐々に父親と息子の距離を縮めていきたかった。何故なら、オニーが父親を嫌う根本は夫婦仲とは関係ないからだ。オカンと夫の仲を修復するというのは、夫がオカンの方に来るという事であって、オカンが夫の方にぴょんと行くのではない。オカンがぴょんと行くと、オニーとオカンの距離が離れてしまう。そうなれば、オニーはオカンを取られたと思ってしまう。オカンは俺を捨てたんだ、と。

きっと夫はそこまで深く考えてはなくて、自分も家族と仲良くしたくて、オカンが悪かったと謝る姿を見れば、父親が悪かったのではないと知って、オニーは直ぐに自分を受け入れてくれると勘違いしたのだろう。父親と息子の溝は、夫が思う以上に深く離れていることを、夫は気付いていなかった。そして、夫が考えているような理由から、オニーが父親を嫌っているのではないと言う事も夫は分かっていなかった。

そう、夫は何も分かっていなかった。

オカンに裏切られたと思い、傷付いたオニーはますます荒れていくのだった…。