青いそら~オニーとオカンと時々イモート~

これはアスペルガーのオニーとフツーのオカン、2人の20年以上にわたる成長記録である。

78*2013 オニー中学校2年生>>13

夏休みはゴッTのお陰で、朝からサッカー部、夕方からは塾、という生活が定着し、楽しい北海道旅行や児相で少しガス抜き出来たこともあり、なんとか無事に過ぎた。

 

2学期に入り、今年の体育祭は無事に終わったが、翌日の代休に事件が起こった。

 

昼過ぎ、出掛けていたオニーから電話がきた。「今から警察がそっちに電話する!彼女(以後彼女っち)とはきょうだいってことにして!」それだけ言って電話は切れた。なんだぁ?と思っていると、電話が鳴った。

 

「オニーのオカンですか?今、オニーが二人乗りした自転車で人にぶつかったので、直ぐに現場へ来て貰えますか?」

 

オカンは急いで現場へ向かった。そこにはオニーと彼女っち、ぶつかった相手の60代の女性と警察官数名と野次馬がいた。

 

「オカンさん、この子は娘さんですか?」「・・・えーと」「オニーが2人は兄妹だと言うんですけど、違いますよね?」「・・・すいません。違います。」誰がどう見てもきょうだいには見えない…。

 

警察官の話によると、少し坂になった道の上から、JRの踏切を渡って直ぐに右折したオニーの自転車(彼女っちと2人乗り)が、自転車に乗った60代の女性とぶつかった。2人は倒れた女性に声を掛け、その場を離れようとしたが、現場に居た通行人が警察へ通報し、2人にその場で留まるように言ってくれたそうだ。

 

駆けつけた警察官がオニーと彼女っち、別々に事情を聞いたようだが、彼女っちは何も語らず、オニーが2人はきょうだいで、体育祭の代休に2人で出掛ける途中だった、と言ったらしい。しかしそこは警察官。2人がきょうだいでないことは直ぐに見破り(誰でも分かる)、オニーにオカンの連絡先を聞いて電話してきたのだった。

 

彼女っちは相変わらず黙秘。何も喋らないらしい。オカンも警察官に彼女っちの親の連絡先を聞かれたが、同じ中学とはいえ学年も違うし(彼女っちは中3だった)、家も知らない。とりあえず、オカンが相手の方に謝罪し、動かなくなったという自転車の弁償のため連絡先を交換し、彼女はオカンが身元保証するということで解放された。

 

オカンは彼女っちの存在は聞いていたが、話をするのは初めてだった。一旦現場から家へ帰ることにして、オニーをチャリで先に帰し、オカンと彼女っちは歩いて帰った。

 

帰り道も彼女っちは黙ったまま。「怪我なかった?オニーにきょうだいって事にしよう、って言われたん?アレは男やしアホやから、彼女っちがアカン事はアカンって言わんとこうやって巻き込まれるよ。」すると、ずっと黙ったままだった彼女っちがボソボソと喋りだした。「…違うんです。私がウチの親に知られたくないって知ってるから、きょうだいって事にしよう、って言ってくれたんです。オレのオカンなら何とかしてくれるから、って。ウチのお母さんには絶対連絡されたくないから…。」

 

おいおい、なんだか厄介な事になって来たぞ・・・(○_○)

 

 

 

 

 

 

 

 

77***児童相談所、その後・・・***

夫は児相へ行った後、夫なりにオニーとの関わり方について考えたようだった。人に頼ったり相談する、という発想がない夫は、1人で結論を出して行動に移った。

「オニーと直接関わらない」

以後、夫はオニーに直接何も言わなくなった。何でもオカンに言って伝えさせる。なのでオニーは更に父親と話さなくなり、2人は常にオカンを通してしか話さなくなった。

「オレが言ったらモメるんやろ?」

そうやけども…。

しかし、それはオニーにとっては良かったようだ。「ヤツがナンも言わんくなって少し楽になった」らしい。そーかそーか。それなら良かった…?

いや、良くないやろ!!

夫は逃げたのだ。オニーと向き合う事から、親子の関係を修復する事から、つまりオニーから逃げた。そして全てをオカンになすったのだ。「オレが言ったらモメる」のならば、どうすれば良いかを考えようとはしなかった。

中2の息子に「父親を殺して自分も死ぬ」とまで言わせたのは何故なのか。今までの自分を振り返り、自分のしてきた事を見つめ直して分析し、1番身近で見てきたオカンに相談して、これから未来の家族の為に自分は何をすべきかを考えるチャンスだったのに。

何故か?

夫は自分が傷つきたくなかったのだろう。自分のしてきた事を否定し、自分の過ちを認め、受け入れて態度を改めることは、プライドの高い夫には出来なかった。14歳の息子に許しを乞うことは耐え難く、既に思春期に入った息子が直ぐに許してくれて仲直り出来るとも思い難い。当然反発もあるだろうし、信頼を取り戻すには時間がかかるだろう。

だから、逃げたのだ。夫はそれを分かっていたから、自力での親子関係の修復を諦め、夫婦仲を改善しようとしていたオカンに"任せる"という名目でオニーと直接対峙することを避け、結果的に育児を放棄したのだ。

そして。オカンも逃げた。夫が1人で間違った結論を出し、行動に移したことを知っても、それを指摘して夫の機嫌が悪くなることや、また嫌な思いをさせられることを恐れて、夫に何も言えなかった。自分を否定されると凶暴化する夫を恐れて、言わずに諦めてしまった。

無意識とはいえ、オニーを傷付けて来てしまったのだから、今度は自分が傷付いてもオニーと向き合って。あんたが傷付いた時は私が支えるから。大丈夫、時間はかかっても親子やねんから必ず分かってくれるよ。私を信じて。

そう言えなかった。夫を包んで、一緒に傷付く覚悟と愛情がなかった。オカンと夫の間は、愛情も信頼も枯渇していたのだ。そして、私は夫から逃げた。

 

夏休みに北海道旅行を予約していたが、父親が行くなら行かない、と言うオニー。中学生1人を置いて行く事は出来ないし、夏休みの旅行を楽しみにしているイモートの為にもキャンセルは出来ない。

話し合いの結果、夫が仕事で行けなくなった事にして、夫だけキャンセルして3人で行く事になった。

初めての3人での旅行。なんて楽しかったことか!!レンタカーの助手席で窓を開けて外へ手を伸ばすオニー。「危ないから気ぃ付けやー。」「おけー」少ししたらやめる。車内でイモートと2人でわちゃわちゃ。オカンの言うことはちゃんと聞くし、兄妹でモメることも無く、終始和やかムード。

こんな旅行は今まで1度もなかった。ホテルのベットで飛び跳ねて、プールではしゃいで、車で歌って…1番楽しかった家族旅行、と2人は言う。オカンも、だ。

今だにオニーはこの旅行の思い出がキラキラしているようで、また3人で北海道行きたいなぁ、と言っているくらいだ。

でもね、オニー。もうイモートはオニーと行ってくれませんよ。行くなら彼氏とでしょ。あ、いや、でももしかしたら、オニーが全額出してくれるなら行ったってもえーでー、って言うかも(笑)

夫がオニーと向き合う事を諦めたこの頃から、夫と3人の溝は更に急速に広がって行った。

 

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76***ときどきイモート5***

2013年、イモートは小学4年生。まだ10歳だったが、イモートはオカンがオニーで大変なことをよく分かっていた。

オカンは学校からしょっちゅう呼び出され、部活動終わりで先生方の仕事終わりの19時過ぎから、それまで生徒指導室で待機させられていたオニーと話し合いが始まる。

毎晩19時頃からオカンとイモートは2人で夕飯を食べていたのだが、呼び出しの日はイモート1人で夕飯を食べ、お風呂に入り、歯磨きをして21時迄にベットに入っていたハズだ。いつもオカン達が家に戻るのは21時半を過ぎていて、帰って1番に部屋を覗くとちゃんとスヤスヤ眠っていた。

基本、夕飯時はテレビ禁止で、オカンと2人でその日の出来事等を話しながら食べていたのだか、呼び出しの日だけはイモートの夕飯をテレビの前のテーブルに準備して、テレビを見ながら食べていいことにしていた。オカンとしては、1人で心細いだろう、ごめんね、という思いだったのだが、そこは末っ子。「ラッキー♪ドラえもん見ながら食べよー♡」ってな感覚だったそうだ。頻度もそこそこ高かったので、オカンとしては1人のお風呂も、仕上げ磨きをしてあげれない歯磨きも、とても心苦しかったのにさ(笑)

ある日、また学校へ呼び出され、イモートの夕飯を準備して行こうとしたのだが、余りの胃痛に蹲ってしまった。その頃オカンは胃痛が酷く、普通の胃薬を飲んでも飲んでも効かず、ストレス性の胃薬で少し治まっていた状態だったのだが、その日は薬も効かず、激痛と辛さから泣きそうになってうずくまっていた。

すると、ご飯を食べかけの、お箸を持ったまま、半分テレビを見ながらのイモートがオカンの側に来て、オカンの背中を擦りながら「ママ、頑張って。ママが行かんとオニー帰ってこれへんよ?」と言った。

ハッとした。そうだ。私が行かないと。オニーが待ってる。今回は何をしでかしたのか分からないけど、ちゃんと聞かないと。私が行って、オニーと一緒に帰って来るんだ。

イモートのヨシヨシに勇気づけられ、胃の痛みと涙を堪え、オニーの待つ中学へ行った…。

もしも前世というものがあるのなら、きっとイモートとオカンは身近な存在だったのだと思う。幼い時にイモートが言った「あのお母さん大変やから行ったって、って言われて来た」と言うのが本当なら、私達には深い因縁があるのだろう。

「ママ、このままやとオニー帰ってくるところないよ。」

6年後、イモートがそう言ったから、オカンは家を出る決心をする事になる。この時も、イモートはオニーを助ける為にオカンを奮い立たせ、行動を起こさせた。

もしかして、イモート、オカンの為と言うより、オニーを助ける為に産まれてきたのか?まぁ、そんな事を言おうもんなら、「えー?ちゃうしっ」と言って、お菓子コーナーからグミを取って自分の部屋へ行ってしまうだろう。

イモート、本当にありがとう。ママに何かあったら、オニーを宜しくね。イヤやろけど(笑)

 

 

75*2013 オニー中学校2年生>>12

1週間後、オカンは再び、今度は夫と2人で児相へ行った。"仕事(自分)より家族が優先"という発想を持ち合わせていない夫は、仕事が忙しいからその日の1時間しか時間が取れない、と言った。家族より大事な仕事なんてあるのだろうか。職場での自分なんて、所詮駒にしか過ぎないのに…。

児相に着くと、前回と同じ調整員の方達とカウンセラーの先生が応対してくれた。「お母さんは外でお待ち下さい。」オカンは部屋の外で待たされた。あれ…一緒に聞かせて貰えないんや…。

何となく落ち着かない気持ちで待っていた。どんな話をしているのだろう?カウンセラーの先生はどこまでオニーの気持ちを伝えてくれるのだろう?夫はどう感じるのだろう?

時間が経って、夫達が部屋から出てきた。「お母さん、お父さんに色々お話させて頂きました。お父さんも家族4人で仲良くやっていきたい、と仰ってますので、後は家族でよく話し合って下さい。」夫とカウンセラーの先生の後ろで出口へ向かって歩いてる時、調整員の1人の方がオカンに小声でこう言った。

「…なかなか…大変なご主人ですな。」

え?どういう意味??

児相を出て、会社へ急ぐ夫を最寄りの駅まで車で送る車内で、夫は「オレの育て方を思っきし言うたったわ。」と言って笑った。

それでか…。大変なご主人…。いつもの雄弁なスピーチを短時間にまくし立てたのだろう。私との話し合いの時のように。相手の話を聞かず、相手に話をさせない。自分を否定されるような話の相手は潰す。それが夫のいつものやり方だから…。オカンは落胆した。また失敗か。もう八方塞がり。次の手は無い…。

またまた真っ暗な穴の中へ落ちてしまった。

 

 

74*2013 オニー中学校2年生>>11

調整員の方は結果を伝えた後、オカンに言った。

「とりあえず、オニーと父親を離してあげるといいですね。近くにお母さんのご実家があるようですし、夏休みだけでもオニーを預かってもらうとか。オニーは施設に行きたい、みたいな事を言ってましたが、施設は行き場のない子ども達が優先ですので…。

何より、オニーはお母さんの事は信用しているようですし、しっかりしたお母さんがいはるから安心です。お父さんともよく話合って、頑張って下さい。では、これで終わりにします。」

オカンは呆気にとられた。え?お母さん頑張って!で終わり?頑張っても頑張っても無理で、1人ではどうしようも無くて、藁にもすがる思いでここへ来たのに?オニーを夏休み実家に預けて、お父さんとよく話し合って、オカンが頑張る!?ちゃうやん!そんなんちゃうやん!!

「ちょっと待って下さい!私と主人で話し合ってもどうにもならないからここへ相談に来たんです!私の話やオニーの気持ちを、夫は聞いても汲み取ってもくれないから、もうどうしようも無くてここへ来たんです!主人は私の言うことは聞きません。お前が正しくて俺が間違ってるんか!?と捉えてしまう人なんです。話になんてならないんです。

主人をここへ連れてきますから、カウンセラーの先生の口からカウンセリングの結果を伝えて下さい。主人は自分の知らない分野の"先生"の話は聞きます。なのでどうかお願いします!!」

オカンは頭を下げて頼んだ。必死だった。こんなんで終わられて、今日の事を伝えたとて、自分のせいだと言われた事を認めるはずがない。オカンが都合の良いように言っていると思われかねない。何としてもここで"先生"からカウンセリングの結果を伝えて貰わねば!!

調整員とカウンセラーの先生は、オカンの余りの必死さに負けたのか、「では日を改めて、次はお父さんとお母さんで来て頂きましょうか。」と言ってくれた。「ありがとうございます!!」

良かった…!!今はなんとか努力して夫と上手くやっているので、夫に「カウンセラーの先生がどうしてもお父さんにも聞いて欲しいと仰っている。」と言えば、一緒に行ってくれるだろう。嘘も方便。オニーの為、家族の為、だ。家に帰って夫に話をしたら、案の定、一緒に行ってくれる事になった。

カウンセラーの先生から自分のせいだと言われたら夫はどう思うのだろう?いや、先生もそうズバリとは言わないかも知れない。オブラートに包むと夫に伝わるのだろうか?

オカンは期待半分、不安半分、でもとにかく少し動き出したことに光を感じていた。

 

☆最近見たテレビドラマ『ミステリーと言う勿れ』で、主人公の久能整くんが「海外ではイジメがあると、日本のようにいじめられた子に逃げなさいと言うのではなく、いじめた子をカウンセリングする」みたいなセリフがあった。

いじめている子こそ、心に何か問題があるのに、いじめられた子を余所に逃がしても根本解決にならない、と。

この時が正にそうだったと思う。調整員さん達は夏休みの間だけでも2人を離して…と言ったが、永久に離せるので無ければ根本解決にはならない。

夫に問題がある。以前からオカンはそう感じていた。当時のオカンの分析では、夫は愛情欠乏症と思いやり欠乏症のダブルパンチから、他者(それが肉親であっても)との上手な人間関係の構築が不得手。自己防衛の為か、自分を否定されることに過敏で、少しでもそう感じると口撃し、相手に反論を許さない。

幼少期に親から充分な(充分とは、自分が求めるだけの、ということ)愛情を貰えず、悲しみから怒り(の時期もあっただろう)を通り越して諦め、自己防衛からその寂しさを押し殺して感じないようにしてきた。

愛情を充分に受けずに育つと、人が(昔は弟・今は息子)愛情を受けている姿を見ると不快に感じたり、その相手や根源(母親・妻)への不満が蓄積されるのだろう。夫は特にオニーがオカンに甘えたような態度を見ると、男やのに、とかアイツは芯がない、等と嫌な顔をした。きっとどこかで弟とダブっていたのではないか…。

後に病院で、夫のオニーへの幼少期からの態度は"精神的虐待"と言われた。虐待されている子を虐待している親から離すことも大事だが、虐待している人の心の問題に目を向け、元は被害者だったかもしれない虐待者をカウンセリングする必要があると思う。

そういうことが一般的な社会であれば、夫も抵抗なくカウンセリングを受け、幼い頃の自分と向き合い、消化して我が子と向き合えたのではないだろうか。今からでも…もう遅いかな…。

 

 

73*2013 オニー中学校2年生>>10

待ちに待った児童相談所の予約の日が来た!!

朝からTシャツに短パンのオニーを車に乗せて20分程で到着。受付らしき場所で名前を言うと、キョロキョロとオカンの周りを見回し、「この子が?」と聞かれた。「ハイ!連れて来ました!!」「…では、少しお待ち下さい。」

オカンとオニー以外には相談に来ているような親子はおらず、2人で待っていると3人の男性が来られて、2階の部屋へ案内された。

そこで我が家の現状をカンタンに話し、オニーは3人の内の1人の、カウンセラーの先生に別の部屋へ連れて行かれた。

残った2人の男性は調整員の方で、オカンはそこで幼少期からのオニーと父親の関係や今のオニーの現状を詳しく話した。調整員の方達はあまり親身になって話を聞いてくれているとは思えなかった。

受付の方がオカンとオニーを見た時にキョロキョロしたのは、もっとヤンキー風の子が来ると思っていたからだったようで、普通の格好に黒髪、オカンについて来て普通に喋っているオニーを見て『切羽詰まっていない相談者』と思われたようだった。今思えばそうだったのかもしれない。でも当時のオカンは、相談出来る人も居らず、学校の先生達もお手上げで、専門家になんとかしてもらいたい、その一心だった。

オニーのカウンセリングが終わり、オカンとオニーは廊下のソファで待たされた。オニーのカウンセリングの結果とオカンの話を総合して、今後について相談しているようだった。

「どうやった?」「ヤツのこと、思っきし言うたったわ。ちょっとスッキリした!」今まで思っていた事を学校の先生以外の第三者に喋れた事で、少しモヤモヤが解消されたようだった。「そかそか。後でなんか美味しいもん食べに行こー。」「ピザがいい!」そんな会話をしていた。

しばらくしてオカンが部屋へ呼ばれた。調整員とカウンセラーの先生曰く…

「オニーは幼い頃から父親が何で怒ってくるか基準が分からず、その時々の感情で怒ってくるのだと理解し、恐れていた。今、身体も大きくなり、父親に力で勝てるかもと思い、幼い頃の恐怖が怒りと憎しみに変わっている。ただ、経済的に敵わない、言うことを聞かないと今の生活が出来なくなる、という点で逆らいきれないところがあり、その苛立ちやストレスが学校生活でのトラブルに繋がっている。」

やっぱり。父親だったか。やっぱり。

思っていた通りの結果。気付かないフリをして、心の奥の奥にしまい込んでいたけれど、もう見ない訳にはいかない。

今まで、オカンが子ども達に父親の悪口を言うから子ども達がオレを嫌うのだ、オカンが「お父さんに謝りなさい!」と怒らないから子ども達がオレをバカにするのだ、オカンが居ない3人の時は上手くいっているのに、と散々言われてきた。オカンのせいだ、と。

カウンセリングの結論。

同じ事をしても(例えばパソコンを使って)上手く出来たら「スゲーやん!やるやん!」と言われ、変な事になったら「勝手に触るな!」と怒られる。妹は怒られない事でも自分は怒られ、逆らうとお金(携帯解約とか)で脅される。その父親への不満や苛立ちが、学校生活でストレスを感じた時に無意識の内に蘇り、友達や物にぶつけてしまう。友達に当たるのも、物を壊すのも、全ては父親への怒りと憎しみからきているようだ。

オカンは本当は分かっていた。ずっと前から…。

この時パンドラの箱が開いてしまった。

ワタシは夫とやり直せるのだろうか…。

 

 

 

72*2013 オニー中学校2年生>>9

児童相談所は夏休みは忙しい(?)ようで、予約は8月頭になった。その日はオニーに部活を休ませて一緒に連れていく、とゴッTに伝えていた。

カウンセリングにさえ行けば…そこで劇的に良くなる訳などないのに、その時のオカンは、その日になれば楽になれる…と、まるで砂漠で水を求める人の様に待ち焦がれていた。

しかし、その前に事件は起こった。

先日姉がウチへ来た時、夏休みに姉がオニーをスキューバダイビングに連れて行ってあげようか、と言ってくれた。姉は趣味でスキューバダイビングをしており、近々行く予定があるということで提案してくれたのだ。

夫に相談すると、「いいやん。」と言ってくれ、お金を出してくれることになり、オニーも初めてのスキューバダイビングを楽しみにしていた。

ところが。ある日たまたま父親と塾に行く前のオニーが、同じタイミングで夕飯を食べていた時、黙々と食べている父親の前でオニーがオカンに何かおかずの事で文句を言った。それはとてもしょーもないことで、オニーとオカンの間では全く大した事ではなかったのだが、父親がオニーに「お母さんが出してくれた物に文句言うな!」と言った。

オカンはピリッとした。いや、ちゃうねん。それはオニーとオカンのテッパンの言い合いで、野菜嫌いのオニーにさっきも食べたのをもうちょい食べさせようとこっそり追加しただけやねん…。ガダン!オニーが席を立って2階へ行こうとした。「おい!マミー片付けて行け!」オニーが出したままにしていたマミーの紙パックを冷蔵庫へ入れろ、と言うのだ。オニーは無視して2階へ上がって行った。その背中に向かって父親が叫んだ。「何やその態度は!!もうダイビングは無しやからな!」

まただ。それは言ったらアカン。その場の一時の感情で絶対に言ってはいけない。どんなに腹が立ったとしても。アナタはオトナなのだから…。

オニーは部屋へ戻ったかと思うと、ダダーっと降りてきて、家を飛び出していった。ハラハラしているオカンに父親は、「ほっとけ!偉そうな態度とりやがって!何様や!」と言った。

砂漠の蜃気楼は消えて無くなった…。

オニーはその日は塾へも行かず、夜中になっても家に帰って来なかった。オカンは探して見つけたとしても、今日は帰って来たくないだろうと思ったし、きっと、どこかの公園で野宿でもする気だろうと思っていた。(ちょうど夏休み前にヤンチャ仲間がそうした様に。)

夫に、どうしようかと言うと、ケーサツに電話したら?と言うので、電話をした。直ぐに警察官が2人来てくれたが、ちっとも探していそうにない両親を見て、うーん、探されましたか?と聞いた。一応、「えーと、心当たりには連絡しました。」と答えたが、本気度を感じさせない両親に、一応その辺巡回してみます、帰ってこられたら署へ連絡下さい、と言って帰って行った。とても申し訳なかったのを覚えている。

オカンは夫に対して、ずっとずっと違和感があった。どれだけ夫と上手くやろうとしても、心の中で声がする。ちゃうねん。そうじゃないねん。そんなんしたら逆効果やって分からんか?なんで分からんねん?ハァ…

翌朝5時頃、オニーは帰って来た。シャワーを浴びて部活へ行った。警察には連絡とお詫びの電話をし、部活から帰ったオニーに何処にいたのかを聞いた。

「公文の公民館の裏。そこで寝とった。めちゃ蚊に食われた。」そかそか…。

早く、早く、カウンセリング…!!