77***児童相談所、その後・・・***
夫は児相へ行った後、夫なりにオニーとの関わり方について考えたようだった。人に頼ったり相談する、という発想がない夫は、1人で結論を出して行動に移った。
「オニーと直接関わらない」
以後、夫はオニーに直接何も言わなくなった。何でもオカンに言って伝えさせる。なのでオニーは更に父親と話さなくなり、2人は常にオカンを通してしか話さなくなった。
「オレが言ったらモメるんやろ?」
そうやけども…。
しかし、それはオニーにとっては良かったようだ。「ヤツがナンも言わんくなって少し楽になった」らしい。そーかそーか。それなら良かった…?
いや、良くないやろ!!
夫は逃げたのだ。オニーと向き合う事から、親子の関係を修復する事から、つまりオニーから逃げた。そして全てをオカンになすったのだ。「オレが言ったらモメる」のならば、どうすれば良いかを考えようとはしなかった。
中2の息子に「父親を殺して自分も死ぬ」とまで言わせたのは何故なのか。今までの自分を振り返り、自分のしてきた事を見つめ直して分析し、1番身近で見てきたオカンに相談して、これから未来の家族の為に自分は何をすべきかを考えるチャンスだったのに。
何故か?
夫は自分が傷つきたくなかったのだろう。自分のしてきた事を否定し、自分の過ちを認め、受け入れて態度を改めることは、プライドの高い夫には出来なかった。14歳の息子に許しを乞うことは耐え難く、既に思春期に入った息子が直ぐに許してくれて仲直り出来るとも思い難い。当然反発もあるだろうし、信頼を取り戻すには時間がかかるだろう。
だから、逃げたのだ。夫はそれを分かっていたから、自力での親子関係の修復を諦め、夫婦仲を改善しようとしていたオカンに"任せる"という名目でオニーと直接対峙することを避け、結果的に育児を放棄したのだ。
そして。オカンも逃げた。夫が1人で間違った結論を出し、行動に移したことを知っても、それを指摘して夫の機嫌が悪くなることや、また嫌な思いをさせられることを恐れて、夫に何も言えなかった。自分を否定されると凶暴化する夫を恐れて、言わずに諦めてしまった。
無意識とはいえ、オニーを傷付けて来てしまったのだから、今度は自分が傷付いてもオニーと向き合って。あんたが傷付いた時は私が支えるから。大丈夫、時間はかかっても親子やねんから必ず分かってくれるよ。私を信じて。
そう言えなかった。夫を包んで、一緒に傷付く覚悟と愛情がなかった。オカンと夫の間は、愛情も信頼も枯渇していたのだ。そして、私は夫から逃げた。
夏休みに北海道旅行を予約していたが、父親が行くなら行かない、と言うオニー。中学生1人を置いて行く事は出来ないし、夏休みの旅行を楽しみにしているイモートの為にもキャンセルは出来ない。
話し合いの結果、夫が仕事で行けなくなった事にして、夫だけキャンセルして3人で行く事になった。
初めての3人での旅行。なんて楽しかったことか!!レンタカーの助手席で窓を開けて外へ手を伸ばすオニー。「危ないから気ぃ付けやー。」「おけー」少ししたらやめる。車内でイモートと2人でわちゃわちゃ。オカンの言うことはちゃんと聞くし、兄妹でモメることも無く、終始和やかムード。
こんな旅行は今まで1度もなかった。ホテルのベットで飛び跳ねて、プールではしゃいで、車で歌って…1番楽しかった家族旅行、と2人は言う。オカンも、だ。
今だにオニーはこの旅行の思い出がキラキラしているようで、また3人で北海道行きたいなぁ、と言っているくらいだ。
でもね、オニー。もうイモートはオニーと行ってくれませんよ。行くなら彼氏とでしょ。あ、いや、でももしかしたら、オニーが全額出してくれるなら行ったってもえーでー、って言うかも(笑)
夫がオニーと向き合う事を諦めたこの頃から、夫と3人の溝は更に急速に広がって行った。