青いそら~オニーとオカンと時々イモート~

これはアスペルガーのオニーとフツーのオカン、2人の20年以上にわたる成長記録である。

74*2013 オニー中学校2年生>>11

調整員の方は結果を伝えた後、オカンに言った。

「とりあえず、オニーと父親を離してあげるといいですね。近くにお母さんのご実家があるようですし、夏休みだけでもオニーを預かってもらうとか。オニーは施設に行きたい、みたいな事を言ってましたが、施設は行き場のない子ども達が優先ですので…。

何より、オニーはお母さんの事は信用しているようですし、しっかりしたお母さんがいはるから安心です。お父さんともよく話合って、頑張って下さい。では、これで終わりにします。」

オカンは呆気にとられた。え?お母さん頑張って!で終わり?頑張っても頑張っても無理で、1人ではどうしようも無くて、藁にもすがる思いでここへ来たのに?オニーを夏休み実家に預けて、お父さんとよく話し合って、オカンが頑張る!?ちゃうやん!そんなんちゃうやん!!

「ちょっと待って下さい!私と主人で話し合ってもどうにもならないからここへ相談に来たんです!私の話やオニーの気持ちを、夫は聞いても汲み取ってもくれないから、もうどうしようも無くてここへ来たんです!主人は私の言うことは聞きません。お前が正しくて俺が間違ってるんか!?と捉えてしまう人なんです。話になんてならないんです。

主人をここへ連れてきますから、カウンセラーの先生の口からカウンセリングの結果を伝えて下さい。主人は自分の知らない分野の"先生"の話は聞きます。なのでどうかお願いします!!」

オカンは頭を下げて頼んだ。必死だった。こんなんで終わられて、今日の事を伝えたとて、自分のせいだと言われた事を認めるはずがない。オカンが都合の良いように言っていると思われかねない。何としてもここで"先生"からカウンセリングの結果を伝えて貰わねば!!

調整員とカウンセラーの先生は、オカンの余りの必死さに負けたのか、「では日を改めて、次はお父さんとお母さんで来て頂きましょうか。」と言ってくれた。「ありがとうございます!!」

良かった…!!今はなんとか努力して夫と上手くやっているので、夫に「カウンセラーの先生がどうしてもお父さんにも聞いて欲しいと仰っている。」と言えば、一緒に行ってくれるだろう。嘘も方便。オニーの為、家族の為、だ。家に帰って夫に話をしたら、案の定、一緒に行ってくれる事になった。

カウンセラーの先生から自分のせいだと言われたら夫はどう思うのだろう?いや、先生もそうズバリとは言わないかも知れない。オブラートに包むと夫に伝わるのだろうか?

オカンは期待半分、不安半分、でもとにかく少し動き出したことに光を感じていた。

 

☆最近見たテレビドラマ『ミステリーと言う勿れ』で、主人公の久能整くんが「海外ではイジメがあると、日本のようにいじめられた子に逃げなさいと言うのではなく、いじめた子をカウンセリングする」みたいなセリフがあった。

いじめている子こそ、心に何か問題があるのに、いじめられた子を余所に逃がしても根本解決にならない、と。

この時が正にそうだったと思う。調整員さん達は夏休みの間だけでも2人を離して…と言ったが、永久に離せるので無ければ根本解決にはならない。

夫に問題がある。以前からオカンはそう感じていた。当時のオカンの分析では、夫は愛情欠乏症と思いやり欠乏症のダブルパンチから、他者(それが肉親であっても)との上手な人間関係の構築が不得手。自己防衛の為か、自分を否定されることに過敏で、少しでもそう感じると口撃し、相手に反論を許さない。

幼少期に親から充分な(充分とは、自分が求めるだけの、ということ)愛情を貰えず、悲しみから怒り(の時期もあっただろう)を通り越して諦め、自己防衛からその寂しさを押し殺して感じないようにしてきた。

愛情を充分に受けずに育つと、人が(昔は弟・今は息子)愛情を受けている姿を見ると不快に感じたり、その相手や根源(母親・妻)への不満が蓄積されるのだろう。夫は特にオニーがオカンに甘えたような態度を見ると、男やのに、とかアイツは芯がない、等と嫌な顔をした。きっとどこかで弟とダブっていたのではないか…。

後に病院で、夫のオニーへの幼少期からの態度は"精神的虐待"と言われた。虐待されている子を虐待している親から離すことも大事だが、虐待している人の心の問題に目を向け、元は被害者だったかもしれない虐待者をカウンセリングする必要があると思う。

そういうことが一般的な社会であれば、夫も抵抗なくカウンセリングを受け、幼い頃の自分と向き合い、消化して我が子と向き合えたのではないだろうか。今からでも…もう遅いかな…。