青いそら~オニーとオカンと時々イモート~

これはアスペルガーのオニーとフツーのオカン、2人の20年以上にわたる成長記録である。

22*2006 オニー 小学校1年生>>4

オニーの担任はベテランおばちゃん先生だった。どっしりと貫禄のあるH先生は、何かとトラブルを起こすオニーを優しく包んでくれ、呼び出されるオカンにも「最近は少ないけど、こういう子がダイヤモンドの原石やねんよ。お母ちゃんもしっかり磨いてあげて。キラキラ光るダイヤモンドになるから。」と言ってくれた。

ある日、オニーが歩いている女の子に足を出して引っ掛けて転倒させた。呼び出されたオカンが「どうして足を出したん?」と聞くと、「足出したらどうなるかなー思て。」と答えるオニー。「その子と何かあったん?」「ん?別に。」・・・つまり、誰でも良かった訳だ。「急に足が出てきたら、引っかかってコケるって分からへん?」「んー?どうなるかなぁ?って。」

オカンは怖くなった。"誰でも良かった"、"やってみたかった"・・・これって、無差別殺人の犯人がよく言ってるセリフやん。「想像してみて。自分が逆の立場でそんなんされたらどう?」「めちゃ腹立つ。」「やんな?そしたら、アカンやん!」

アスペルガーの大きな特徴は、人の気持ちを配慮する事が苦手。想像力が乏しい事も加わって、こうすればどうなるだろう、こう言えばどんな気持ちになるだろう、という事が分からない。やってみないと分からない。でも、やってからでは取り返しのつかない事もある・・・。

オカンはオニーが何かする度に、オニーを連れて謝りに行った。オカンの謝る姿を見ても特に何も響いてなさそうなオニー。なぜなら、どうして自分やオカンが謝らないといけないのか理解出来ていないからだ。なぜなら、いつもオニーに悪気が無いからだ。だからこそ治らない。

そして、大概の謝られたお母さん方は、菓子折りを持って頭を下げるオカンとオニーに「いいですよ。また仲良くしたってね。」なんて言ってくれたりするのだ。すると、アスペのオニーはそれを言葉通りに受け取り、いいですよ⇒許してくれた。仲良くしたってね⇒また遊ぼう!となるのだ。だって、オニーに悪気は無いのだから。

オカンは考えた。以前、スーパーでのかっぱえびせん事件(14*)の時も、結局レジでお金を払って謝ったら、パートのオバサンが「いいですよ^^*」とニッコリ言ってくれた。オカンはあんなに激怒して「ドロボーやで!!」と怒ったのに、お店の人はニッコリ許してくれた。オニーは「??」だった。みんな、許してくれるやん?それはアカーーン!!

そこで、オカンはオニーを連れて行く前に、先にオカンだけで謝りに行き、事情を話して「これからオニーを連れて謝りに来ますので、"そんな危ない事アカンよ!これからはしないでね!"とキツめに言って下さい。」と協力をお願いした。

相手の方にとってはいい迷惑だっただろう。被害者なのに、謝る親を許さない非情な人を演じてくれ、と頼まれるのだから。しかし、オカンの必死さが伝わったのか、皆ぎこちないながらも頑張って演技をして下さった。

いくらオカンの謝る姿を見せたとて、気安く許されてはオニーに事の重大さが伝わらない。なんならオカンが怒られ、怒鳴られ、蹴っ飛ばされるくらいの方がエラい事をしたと分かるだろう。しかし、さすがにそこまでは頼めない。そもそも相手は被害者なのだ。

手探りの日々。まだアスペルガーなんて言葉さえ知らない頃。本当にどうすればいいか分からず悩んでいた。それ以外は普通なのだ。それなりに仲良く遊ぶ相手もいる。勉強も特に問題はない。

当時はただのやんちゃで思いやり欠乏症だと思っていたオカン。学校から電話がある度にビクッとしていた。「また!?何した?」これは高校を退学するまでずっと続くのだった。

ダイヤモンドの原石・・・。いつか、ピカピカ光るのかなぁ・・・?