青いそら~オニーとオカンと時々イモート~

これはアスペルガーのオニーとフツーのオカン、2人の20年以上にわたる成長記録である。

23*2006 オニー小学校1年生>>5

1年生の冬、初めてのマラソン大会があった。近くの大きな公園へ各学年毎に行き、公園を2周(約2km)走ってタイムをはかる。練習で1度走り、なかなかのタイムと順位だったオニーはとても楽しみにしていた。

しかし残念な事に当日は雨。他の日への振替が出来なかった為、マラソン大会は中止になってしまった。その代わり、体育の授業でクラス毎に学校のトラックを10周(約2km)走ってタイムをはかる事になった。

よーい、ドン!30人以上の生徒が一斉にトラックをぐるぐる走る。しかも10周。タイムをはかるのはH先生と見学者のクラスメイト(1年生)数名。

当然、自分が今何周走っているかは自分で数えなければならない。そして、1周が短い為に周回遅れの子が出てくる。そのうち自分が何周走っているのか分からなくなる子も出てくる。速い子がゴールをすると、自分もゴールしてしまう子も現れ・・・最後には誰もよく分からなくなって終わった。

2学期の終業式、通知表と一緒にその記録会のタイムが書かれた賞状が渡された。タイム自体はよく分からないが、自分より遅いハズの友達のタイムが自分より速く書いてある事に気付いたオニー。「え?なんで??」オニーはH先生に聞きに行った。H先生がどう答えたかは分からないが、到底オニーが納得いく返事ではなかったようで、オニーは賞状を受け取らなかった。

1時間程、H先生とオニーは問答を繰り返していたようだ。k君もr君も帰宅していたが、オニーは帰ってこない。何があったんだろう、と心配していると電話が鳴った。H先生からだ。「お母ちゃん、学校来てくれる?」イモートの口におにぎりをほりこみ、自転車で学校へ。事情を聞いてため息が出た。

「こんなん、なんのイミもない。やり直して欲しい。公園でやったら絶対あいつらに負けるわけないねん。あいつら10周走ってへんねん。だからあんなタイムやねん!」

そうだろうね。オカンもそう思う。オニーの言う通りだと思う。でも。しゃーないやん・・・。そう思えるのは諦める事を覚え慣れた大人だからだろうか?他にもオニーのようにタイムがおかしいと気付き、家で母親に文句を言い、宥められ、チエッと思いながら理不尽を受け入れ、諦めを覚えていく・・・という子もいただろう。

オニーはそれが出来なかった。今でも苦手だ。

それなら賞状なんて要らない。イミのない賞状は要らない。オカンが行っても話は堂々巡り。その間1時間半、イモートは何も言わず1人黒板の隅にチョークで絵を描き続けていた。

そしてオニーはふっと気付く。「あ、お腹減った。」そりゃそうだ。もうすぐ2時だ。「帰る。」
オニーは何事も無かったようにランドセルを背負い
、賞状は持たずに歩き出した。オカンは慌ててH先生に挨拶をし、イモートの手を引っ張って、賞状を持ってオニーを追いかけた。

オニーは家に帰ると何事も無かったように昼ご飯を食べ、遊びに行ってしまった。どうやら、遊ぶ約束を思い出して帰ろうと思ったようだった。

・・・何だったんだ、一体!?

こだわり出すとテコでも動かない。かと思うと、ふっと何かが切れたように動き出す。あの1時間半は何だったんだ?頭をスケルトンにして見てみたい。当時よくそう思ったものだった。